第5章 決断の無言歌
そのくせ子供の面倒なんて殆ど見ないし、昼間少し働いて夜は何処ぞの男と遊んで。借金を失くす為の離婚じゃなくて自分が遊ぶ為の離婚じゃないかって本当に思う。
お父さんだってそうだ。働いた給金以上に遊んで借金作って。離婚してお母さんみたいに借金がチャラになった訳では無いけど肩の荷が降りたとでも思ってるに違いない。
慰謝料どころか養育費すらも無くて完全なる責任放棄じゃないか。
『………分かった』
「後3ヶ月くらいしかないのよ」
『分かってるって言ってるでしょ!?そーやって学業の心配するなら家の事一つや二つやってよ!!!』
「「ねぇね…」」
「「お姉ちゃん…」」
『あっ………ごめんっ…アンタ達を怒った訳じゃないの。ごめんね』
アタシが…アタシがキョーダイを守らなきゃ。
※※※
それからと言うもの。ゴチャゴチャした考えが纏まらず頭がスッキリしない日々を過ごしていたら、いつの間にか冬休みに入って知らずのうちに三学期に入っていた。
『言わなきゃ。怒るかな?』
ううん、実亞加の事だから泣いちゃうかも。
『…!ねぇ智桜姫ってば!』
『えっ!?』
『どうしたの?先月から全く元気無い。冬休み中だって全く連絡くれなかったし…』
『あ…うん………ちょっと色々…』
『智桜姫…私じゃ力になれない?頼りない?』
そんな事は無い。でも悲しませるのは事実。
『放課後、ちょっと時間いい?』
※※※
放課後。日直の仕事を終えて駆け足で屋上に向かう。
重たい扉をそっと開ければフェンスに張り付いて夕焼けを見詰める智桜姫がいた。冷たい風に靡くサラサラの髪の毛の間から垣間見える頬は紅く染まっていて。夕焼けのせいか冷気のせいか分からなかった。
『智桜姫』
『ごめんね、実亞加。部活あるのに』
『ううん』
『まどろっこしいのは嫌いだから単刀直入に伝える』
そう言う智桜姫の目は凄く悲しそうで辛そうで。今までどんな事があっても、こんな表情は見せなかったのに。
『来年度…4月から神奈川の学校に通わなくちゃいけなくなった』
『…え………』
『本当はね…去年神奈川に引っ越してからこの話は出てて………区切りのいい2年までって言われてて…』