第4章 小指の小曲
優しく笑いかけたつもりだったけど…お顔を真っ赤にして走って行く小さな背中を見送る。
『怖がらせちゃったかな?』
『多分違うと思うよ』
『そうかな?』
『まぁ走って行っちゃったって事は大した用事じゃなかったんだよ』
『…だよね』
『行こ!私も早く戻らないと煩いから』
と手を優しく握って引っ張る。
『うん』
※※※
『じゃ有難ね』
『ん。神奈川まで気を付けて!また来週』
『うん、また来週』
送ってくれた親友の背中を見送って、鞄から定期を取り出す。
『次の電車はー…』
「あの…」
『?』
ふいに声をかけられて後ろを振り向くと、とても綺麗な女の人が立っていて、その背後にさっきの女の子が隠れていた。
姉妹…いや親子か。でも待って。アタシこんな綺麗な親子知らない。
「桜音 智桜姫さん、ですか?」
『え?あ、はい………』
「先日は息子がお世話になりました」
『………はい?』
むす、こ………?
※※※
場所は変わって駅前の喫茶店。
聞けばこの親子は、こないだ駅で倒れた彼の母親と妹さんだと言う。通りで見覚えがあるハズだ。
「コートの中に生徒手帳が入ってたので失礼ながら勝手に伺わせていただきました」
『え!いえ、とんでもないです!』
「コートはクリーニングに出してあるので」
『そんな…気を使わせてしまって申し訳ありません』
うわーどうしよう。こんな美形一家だなんて…恐縮過ぎて謝る事しか出来ないんですが…!
「クリーニング、終わってるんですけど…」
『?』
「息子がどうしても智桜姫さん本人にお会いしてお礼が言いたいと言うので…」
『はあ…』
「で…でもお兄ちゃん入院しなくちゃいけなくて!おっ…お外に出られなくて…だから智桜姫さん!」
『はい!』
「お兄ちゃんに会ってあげて下さい!」
『え!?あ、はい!!』
あ、しまった…勢いに負けてイエスの返事しちゃったよ。いやでも迷惑じゃないだろうか…
「ふふふ」
『!』
あ、笑い方そっくり。
「是非、行ってあげてください。きっと息子ったら大喜びすると思うので」
『だといいんですけど…』