第21章 隔靴搔痒の練習曲
「お母さん!後で紅茶とクッキー持ってきて!」
「はいはい」
そんな会話を微笑ましく思いながら部屋に招き入れられる。とても女の子らしくて可愛いお部屋。夏葉は何度かお邪魔した事あるみたいでキョロキョロと見渡す事無く行儀良く正座をする。
『聖菜ちゃんはしてみたい髪型とかある?』
「えーと…」
『夏葉は髪の毛短いから編み込んでお花付けるだけだから、先に夏葉のヘアセットしとくし考えといてね』
と先程本屋で買ったヘアカタログを渡すと食い入る様に本を見出した。
※※※
「ただいま」
「お帰り」
病院から帰ったら出迎えてくれるのはやっぱり母。ふと玄関に並んでる靴を見ると見慣れないサンダルが二足。
「智桜姫ちゃん、もう来てるわよ」
と含みのある笑みを浮かべると、紅茶のおかわり持って行ってくれと頼まれる。そう言えば今日は学校でも無いし部活でも無いから私服なんじゃ…智桜姫の私服…これって凄く貴重なんじゃ…
-コンコン-
逸る気持ちを抑えて部屋の扉をノックすれば"どうぞ"と妹の声がする。慎重にドアノブを回して扉を開ければ、もう着付終わったであろう夏葉ちゃんがお行儀良く正座をしてた。部屋の奥では浴衣を着て両腕を広げる聖菜とその後ろで帯を整えてる智桜姫。
「あ、お兄ちゃんお帰りなさい」
『え?あ!幸村君!お帰りなさい、お邪魔してます』
「お邪魔してます」
聖菜の後ろからひょっこりと顔を出す智桜姫。短い髪の毛を後ろで結わえていて、いつもは小さな玉状のシンプルなピアスが今日は輪っかだったり、ゆらゆら揺れる長めのものだったり。少しお化粧もしてるのかハッキリした睫毛とみずみずしい唇。
は?え?何コレ天使なの?
「お兄ちゃん?」
「…は!紅茶のおかわり持って来たんだ」
『御免ね、気ぃ使わせちゃったかな?』
「そんな事無いよ」
なんたって一番楽しそうにしてるのは母さんだし。
『よし出来た!うん、聖菜ちゃんとっても可愛い』
「わー!有難う御座いますっ!見て見てお兄ちゃん!」
「うん、可愛い可愛い」
「お母さんに見せて来る!行こ、夏葉」
はしゃぎながら部屋を出て行く妹達を見送って智桜姫を見る。脱ぎ散らかされた洋服を畳んでベットの上に置く。