第21章 隔靴搔痒の練習曲
「夏葉ちゃんよ。週末にある神社の夏祭りに一緒に行く約束をしてるらしいの」
夏葉ちゃん…智桜姫の妹さんか。
「うん、うん…分かった!じゃあまたね!」
電話を切ると台所に立つ母さんに飛び付く。
「お母さん浴衣出して!」
「浴衣着て行くの?」
「うん!夏葉は智桜姫さんが着付してくれるんだって!髪の毛もやってくれるんだって!私も智桜姫さんにやってもらいたい!」
「あら…でもそれはご迷惑なんじゃ…」
と母と目が合ってしまったので智桜姫に確認のメールを送ってみたら"全然大丈夫だよ"と言う返事が直ぐに来た。
「何かお礼をしなくちゃいけないわね…そうだ!当日ウチに来て貰ったらどうかしら」
「えっ」「やったー!」
※※※
「って事何だけど…どうかな?」
合宿から帰って来て次の日の部活。昨日の今日だからって部活は休みになる訳でもなくメニューが甘くなる訳でも無い。皆凄いなーって思いながらいつも通りのマネージメントを終えて片付けをしてたら幸村君に声をかけられる。
どうやら週末の祭りの事みたいで昨夜、夏葉が聖菜ちゃんと電話しながら浴衣着付けてーとか髪の毛の弄ってーとか言ってたなぁと。その後に幸村君から"ウチの妹も智桜姫にやって欲しいみたいなんだけど"ってメール来たから承諾したっけ。
『んー…』
そしたら幸村君のお母さんがお礼もしたいからとお呼ばれした訳だ。お礼とかそう言うのは必要無いけど、ウチじゃ狭いし煩いしで着付けてあげるの大変だから、お家にお呼ばれは割と助かったり。
『じゃあお邪魔させてもらおうかな』
「ふふ、妹が喜ぶよ」
『そうなの?』
「聖菜は智桜姫に憧れてるみたいだからね」
え、何それ超嬉しい。ってゆーか幸村君の妹に憧れてもらえるなんて、かなり恐れ多いんですけど。
-ヴヴヴ-
『!』
緩みそうになる頬を"止めろ!正せ!"とでも言いたげに震える携帯。確認するとメールが一件。実亞加からだ。
『え』
「?」
跡部が立海に行ってるっぽい、と珍しく絵文字も顔文字も無い文章に背筋に汗が流れた。
※※※
「そこまでだ」
とテニスネットを緩める幸村君。