第20章 青春の八重奏
言われるがままにバイクに跨るとスタンドを外す。バランスが不安定になるバイクを両足を地に付けて支えると俺の前に智桜姫が跨りキーを回してエンジンをかける。
『発進したらそこに足掛けて』
「うん」
『しっかり腰に捕まってね。じゃないと振り落とされるよ』
「し…失礼します………智桜姫ヘルメットは?」
『一個しか無いから幸村君被ってて』
「えと…ナンバープレートにタオルを…」
巻くのはどうして?と聞きたかったけど嫌な予感しかしないから口を噤む。
『まぁ…中学生だし無免許だしノーヘルだしスピード出すし?』
つまりは違反しかしないって事だよね?
『大丈夫、ひったくったの原付だしスグ追い付く。んでもって警察にお世話になる様なヘマはしないから』
※※※
『幸村君大丈夫?』
「うん…いや君って本当に凄いよね、色々と」
と困った様に幸村君は微笑む。
ひったくりに遭遇して荷物取り返してお婆さんに返すまでの時間は10分。そのたった10分で警察にお世話になる様な案件が数件。幸村君みたいなタイプは勿論そんな事する様なタイプでは無いから巻き込んでしまった事を心苦しく思う。
「でも貴重な体験出来てちょっと楽しかったよ」
『はは…御免ね』
「どうして運転出来るのかは聞かないけど智桜姫は困った人を見過ごせない優しい子って事がよく分かったよ」
『そう言う訳じゃ…』
無いんだけど。
「真田辺りに知られたら顔を真っ赤にして怒りそうだよね」
『確かに。あ、荷物重くない?やっぱり半分持つよ』
「大丈夫。早く皆に届けてあげよう」
と両手に持つパンパンになった大きめのコンビニの袋を持ち上げる。先程のひったくりに遭ったお婆さんから御礼としてコンビニで使えるQUOカードを貰ったので買い物先をコンビニに変更して飲み物とアイスクリームも買った。
『あ…皆にはなんて言おう…』
「普通に人助けした、でいいと思うよ」
あぁもう…優しいのは幸村君じゃんか。
一同「おーい」
『「!」』
少し先に此方に向かって手を振る皆が見えたから走る。
「遅かったな」
『御免ね』
「何か荷物多くね?」
『あぁ、これは…』
「ちょっと人助けしたらお礼にって」
一同「人助け!?」