第8章 仮面
「ジローから聞いたんちゃいますよ。」
あいつのことやから、秘密とか内緒とか言ったんちゃう?と続ける。芥川くんは寝てることも多いけど、意外と賢いところもあって、やっぱり秘密と言ったら言わないとは思っていた。じゃあ、なんで・・・
薄暗い教室の壁際に追いやられ、上から見下ろされている状況で、やっぱり目は合わせることができず左右へ泳がせる。
「昨日、部活の時間が早まったんでジローを探しに行ったんですよ。たまたま、ジローが数学準備室へ入るん見かけて、あそこやろって思って行ったら声が聞こえて。」
覗いてへんし、バラすつもりもあらへんけどと続ける忍足くんの声色からもわかるが余裕な表情を感じさせる。
ドキドキと、私の心臓は速く焦ってしまう。あの時、芥川くんからすぐに離れていたら・・・あの時、芥川くんのお願いを受け入れてなかったら、今こんな思いをすることもなかったのかな・・・。でも、キラキラした寝顔を眺めて、触れて、求め合ったあの瞬間は、幸せにも思えたから。
「・・・お願い、誰にも・・・言わないで・・・」
目にはいつの間にか涙が溢れ、言い終わると同時に頬を伝う。声が上擦ってしまう。この先、芥川君との関係がどうなるかなんてわからないけれど、交わした“ひみつ”は確かに私と芥川くんの物なのだ。
「おねが・・・い・・・忍足くん・・・言わないで・・・」
やっとの思いで顔を上げ、忍足くんを見た。涙を流し、生徒に悲願する、なんて情けないんだろう・・・。