第8章 仮面
「せーんせ?」
後ろから声を掛けられ振り向くとさっきランチルームで会ったテニス部の子がいた。さっきも思ったけれど、落ち着いた感じで、でも笑顔は柔らかくて。座っていた時は気付かなかったけれど、結構背も高い。きっと女の子からも人気に違いない、と言った印象だ。芥川くんと私はさほど身長も変わらないけれど、少し見上げる形になる。たしか“おっしー”と紹介されたけれど、名前を聞かなかったから考えていると、忍足です。と教えてくれた。
「あ、だからおっしーって呼ばれていたのね?」
芥川くんらしいというかなんというか。私のことも、“楓ちゃん”なんて呼ぶくらいだし。一応教師なのに。
「せや、先生に聞きたいことあんねんけど・・・」
「え?何かしら??」
「ジローのことなんやけど・・・」
ジローのこと、と言ってこちらを見る目は、笑っているけれども先ほどのような優しい表情とはちょっと違って、何だか全てを見透かされているようで背中がゾクリと震えた。
「えっと・・・芥川くんのこと・・・?」
動揺を隠そうとするも、きっと隠しきれていないんじゃないかって、その先の質問を聞くのも怖くなる。違う、だって秘密って約束したもの・・・
「ジローがよく昼寝に行くところ、教えて欲しいんやけど、先生心当たりない?」
「へ?」
よくよく聞いてみると、芥川くんにはお気に入りの昼寝スポットがあるようで、保健室や屋上、裏庭なんかがその1つらしい。部活へは同じクラスの宍戸くんがよく連れて行くけれど、いなくなってしまった時に探すが最近はその昼寝スポットで見かけないから知らないかってことのようだ。
その質問に、悟られないようにホッと胸を撫で下ろす。
きっとその昼寝スポットっていうのは数学準備室のことなんだろうけれど、それを教えるということは、寝ている芥川くんを探しに来るってことで、探しにくるってことは、本当に、もう関係も終わりになるんだろうなっていうこと。
距離を置かなくちゃ、と言い聞かせていたのに、昼寝スポットを教えることに躊躇ってしまった。