第7章 心の目覚まし。
受け持ちのクラスに芥川くんがいるのは気まずいけれど、幸い(と言っていいのかわからないけれど)彼は寝ていることが多いから、きっと気にならないだろう。
教室へ入る前に扉の前で呼吸を整える。うん、大丈夫。眼鏡だってかけているし、私は平気。気持ちを落ち着かせて教室へと足を踏み入れた。
「起立、気を付け、礼。」
「おはよ・・・っ・・・」
日直の号令でクラスの方へ向き直って挨拶をしようとすると、今日に限って大きくてくりっとした目を開けてニコニコとこちらを見ている芥川くんが視界に入り言葉を詰まらせてしまった。
なんで・・・
「先生・・・?」
「ご、ごめんなさいね、おはようございます。」
「着席。」
「あ、・・・出席を取ります。」
何で起きてるの・・・?いつも寝てるじゃない・・・なんで・・・?
普段と異なる様子の芥川くんに少し動揺しつつも呼名をしていく。
「芥川くん」
「はーい!起きてまーす!」
腕を高く上げてそう返事をした。起きてますという言葉にクラスからは笑いが起きた。
「今日は起きているのね?」
「うん、だって楓ちゃんに会いたかったしっ。」
その返答に、私の心臓は聞こえてしまうんじゃないかと思わせるほどばくばくと音を立てている。
「何ですかそれ・・・せめて勉強するためと答えなさい?」
落ち着いて、昨日のアレはひみつなんだから・・・。もう、今日からは少し距離を置くって決めたんだから・・・。
それでも芥川くんは私の心を掴んでは離してくれない。