第7章 ※出会いと別れ
茶トラの猫に一声掛け、俺達はまた木々の中に入って行った。ある程度歩いた先で、猫の姿から元の妖の姿に戻る。
懐から煮干しを取り出し、茶トラの猫にあげる。茶トラの猫は一声鳴き、美味しそうに煮干しを食べた。
そんな時思い出したのは、廉のニコニコと笑っている姿。
廉か……もう、会うことは…無いだろうな。
次の日、暇な俺は猫達と話をしていた。すると突然、聞き覚えのある叫び声が聞こえてきた。
俺はまさかと思って、その叫び声の方向に駆けて行った。
『くぁーー!!放して!!』
「今度こそ、逃がすものか小娘が!!」
「……またお前か」
小さな人間の上に跨がる髭の生えた妖を思い切り蹴飛ばした。髭の生えた妖は蹴られた衝撃で向かいの木に叩き付けられた。
「ぐあ…っ!!……っあ、猫又様!!こ、これは…」
「……もうこの人間の前に現れるな。さもなくば…」
「ひぃぃっ!!申し訳ございません!!」
悲鳴を上げた髭の生えた妖は、また何処かに飛んで逃げていった。
ほっと息を吐いた俺はくるりと振り返る。
「……何でまた来たの。まさか、また迷子とか言わないよな…」
眉の端を下げ申し訳なさそうに笑う人間。昨日会った廉だ。
『あのね、昨日、助けて貰ったでしょ?なのにお礼言おうとしたら、居なくなっちゃったから…』
「お礼?……別にそんなの要らない」
何で危険を冒してまで…こんな俺なんかに。
弱い人間の癖に…
『……でもっ、おばぁちゃんは誰かに助けて貰ったら、お礼はちゃんとしなさいって…』
「お礼なんて良い……だって俺は妖、廉は人間だから。本来関わ…っ!!おまっ、何で泣いて」
ふと廉の方を見ると、何故か泣いていた。俺は訳が分からず戸惑った。
『何で怒るの!!……っお礼、しにっ…来ただけなのに!!』
「!おい、廉!!」
廉は大声で"バーカ!!"と言って、走り去ってしまった。
俺は呆気に取られて、廉の後ろ姿を呆然と見送った。
……これで、良いんだ。
不意に視線を落とすと、地面に何かの袋が落ちている事に気付いた。俺はそれを拾い上げた。
「……煮干し…?」
未開封…廉が持ってきたのか……?俺の、ために?