第6章 妖界へようこそ!!
「っ頭、大変っ……グハっ……!!!」
襖を開けた鬼が派手な音を立てて部屋に倒れこんだ。
血がジワジワと畳に広がっていく。
「誰だてめェ……アイツらの仲間か?」
やっと肩の痛みに解放され、涙ながらに倒れた鬼の上にいる黒い影に目を向けた。
黒い影はニヤリと笑うと口を開いた。
「オレかぁ?……仲間ってわけじゃねぇが、近い存在ではあるな。そんな事より……今はそいつを殺されると困るんだよなぁ!!」
黒い影が先制を掛ける。鬼は黒い影の眼で追いきれない程の攻撃を真正面から食らい、障子を破って廉の視界から消える。
外から鈍い音と共に叫び声とどよめき声が聞こえてきた。
黒い影は"弱ぇなぁ……"と溢してクツクツと喉を鳴らした。
一瞬の出来事に廉は目を見開き、驚きを隠せないでいた。
しかし一つだけ気付いた事がある。コイツはトド松でもカラ松でもない。声は勿論、纏っている雰囲気が違う。
「よぉ、生きてるか?」
『……誰?』
「ハハっ……本当に似てるなぁ。声までそっくりだ」
まるで聞いていない黒い影は、私に近付いて来ると手首を縛られていた縄を切った。微かな血の匂いが鼻を掠める。
「オレはアイツらの"兄弟"ってところだな」
兄弟?…確かに、顔はどことなく似ている。
涙で霞んでいた視界は晴れ、黒い影がハッキリと視え始める。
黒い髪に黒い着物。全身が黒に包まれている。しかし眼だけは違い、まるで獲物を捕らえようとする肉食獣のように赤く光っていた。
「っと無駄話が過ぎたな。そろそろアイツらが来る……折角だ置き土産でもしていこう」
全身黒の妖は廉の耳に口を寄せ囁いた。
「最後の夜を楽しむと良い」
『……!!!』
驚いて耳を防いだと同時に左の鎖骨辺りをつつかれた。つつかれた箇所に針で刺されたような痛みが走る。
『今、何を……!?』
黒い妖はそれに答える事なく笑みを残して一瞬で消えた。
……最後の夜……何が目的だったんだ、あの妖は……でも今は悩んでいるより此処を離れた方が良いか…
この部屋で動いている者は私しか居らず、あとは倒れてピクリとも動かない鬼達。
痛む身体を我慢しながら立ち上がる。
その時、ドタドタと激しい足音が聞こえてきた。