第6章 妖界へようこそ!!
トド松が声を掛けると、ビクッと身体を揺らし顔を上げた。長い黒髪が特徴の女性の妖だった。
「あら、トッティいらっしゃい」
「また寝てたのー?無用心だなー」
トド松と店主は仲良さそうに話している。知り合いのようだ。
トド松と店主が会話をしていると店主が不意に私に目を止めた。そして、何故か小さく笑みを浮かべた。
笑みの意味が解らず、私は咄嗟にアクセサリーに目を向けた。
お店に並んでいるネックレスや髪飾り等はどれもキラキラしていて私には似合わなそうだ。
しかし、ふと白い花の飾りがポイントのヘアクリップが目に入った。
「それは私が手作りした物だよ」
店主が私を見て言った。それを聞き逃さなかったトド松が直ぐに反応する。
「!廉ちゃんそれ気に入ったの?」
『いや、別に…可愛いなぁと思っただけで』
「これください!!」
「はい、毎度ありー」
『ええっ!!?』
見事な連携でヘアクリップがお買い上げされる。
「僕が着けてあげるね!」
トド松は店主からヘアクリップを受け取ると廉の片側の髪を耳に掛け、ヘアクリップで留めた。
「うん!良く似合ってるよ!」
『……そうかなぁ』
まぁ、折角トド松から貰った物だし一応このまま着けておこうかな。
そう思っていた時、遠くから廉とトド松を呼ぶ声がした。声のする方に顔を向けると此方に向かって来るカラ松の姿が見えた。
「あれぇ、カラ松兄さん。こんな所にいたの?」
「あぁ、情報収集にな……おっ、廉それトド松に買って貰ったのか?似合ってるぞ」
カラ松が私に気付き、ニコリと微笑んだ。
更に"オレも何か廉にプレゼントしよう"とカラ松が言い出し、トド松がそれを止めた。そこから買う買わないの二人の言い合いが始まった。
店の前で言い合いをする二人を呆れながら見ていると突然妖達の波が廉を襲った。その拍子にトド松と繋いでいた手が離れてしまった。
『ちょっ…!!』
流れに反して進もうとした瞬間、お腹に激痛を感じ崩れ落ちる私の身体を誰かが受け止めた。激痛のあまりの痛さに意識が遠退いていく。
遠くからトド松とカラ松が私の名前を呼ぶ声が聞こえる。
必死に手を伸ばしてもそれは届く事無く、虚しく空を切った━━……