第5章 探し物
妖6体。恐らくおそ松を含めた、最近私に付きまとう妖達だろう。
「……そうか、俺達が狙いってことはアイツらの可能性が高いかもな」
おそ松が小さく呟く。
アイツらというのは、何かを企んでいるという"奴等"の事だろうか。
「は~……また面倒事が増えちまったな~。
それで、トト子ちゃん。その依頼はまだ続けるの?」
おそ松が挑発するように言うと、トト子は首を横に振った。
「今回は、止めとくわ。力の差が有りすぎるもの。
……でもそうね、依頼は依頼だから、隙があったら遠慮なく殺しに行くわ」
と、トト子は笑顔で返していたが、目は笑っていなかった。
「あぁ、そうだ。これ……貴女にあげるわ」
『?』
弱井さんから、スッと差し出されたのは名刺だった。魚の絵が描いてある、可愛らしい名刺だ。
"アイドル 弱井トト子"
アイドルの文字の隣には、小さく"兼 万屋"と書かれていた。
名前の下には事務所の名前と住所、電話番号がある。
『えーと、これは?』
「名刺だけど?」
……えー、いやそれは分かっているんだけども。
「要らないなら、返して貰ってもいいわ」
『えぇっ、い、要ります!』
突然の返却の申し出に、私は貰った名刺を抱えた。
何故名刺をくれたのかは分からないが……
「ししっ!トト子ちゃんも素直じゃないね~。
"何かあったら電話しても良いわよー"って一言言うだけなのに」
「!!はー!!?何言ってんの!?そ、そんな訳無いじゃない!!やっぱり此処で殺す!!」
トト子は鞘に納めていた太刀に手をかけ、おそ松は"怖ーい"と言い自身を抱きしめていた。
……何かあったら……そっか、弱井さんも優しい所があるんだ。時々言ってる事は怖いけど。
『弱井さん、ありがとうございます。何かあったら連絡させて貰いますね』
「ふんっ、別に只の気紛れよ。人間が妖とつるんでるなんて気に食わないけど、あなた何かややこしい事に巻き込まれてるみたいだし……じゃあ、私はもう行くわ」
トト子は最後にその一言と笑みを残して、木々の中へと消えていった。