第5章 探し物
麦わら帽子を被り、暑い日射しの中を歩く。
これが1人だったら良かったものを……
「なぁ、まだ着かねぇの?その神田さんって所」
おそ松は頭の後ろで手を組ながら、顔だけ振り返る。
『まだだよ』
ため息混じりで答えると、おそ松は"ふーん"と興味が無さそうに前を向いた。
いや、お前が聞いて来たんだろうが!?と心の中で突っ込んだ。
先程の事もあり、恥ずかしさがまだ拭えずにいる。
その恥ずかしさは、前を歩くおそ松との距離を示していた。
あー、もう何で泣いちゃったんだろ……
相手は妖だってのに。
…私のバカァ!!
頭を抱えながら歩いていると、ふとスマホが震え軽やかなメロディーが流れた。
この音楽だと電話かな。
歩めていた足を止め、スマホを鞄から取り出す。
スマホを取り出すと、同時にチャリンと地面に何かが落ちた。
…鍵が。
ちらりとスマホを見ると、知らない電話番号だった。
まぁ良いかと、落ちた鍵を拾おうと手を下に伸ばすと、目の前を黒い物体が通りすぎ、一瞬にして鍵が消え失せた。
黒い物体が通りすぎた方向に目を向けると、鍵を煌めかせ羽ばたいていく。
『カ、カラス!!?…ちょっ、返せ鍵ーー!!』
「え?何カラス?」
カラスは手を伸ばしても届かない距離に飛んで行った。
と思ったら、クルリと方向転換をし、今度は山の方へと飛んで行く。
『ったく、ふざけんな!!』
「おいおい!どこ行くんだよ!」
『…ちょっと、早く追い掛けないと!見失っちゃうでしょ!』
グイッと服の襟を捕まれ、私はおそ松を睨み付けた。
「そんなに睨み付けられてもね、そそられるだけなんですケド?…あぁ、ごめんごめんそんなに怖い顔しないでよ。…んで、あの鍵がそんなに大事なの?」
『大事って…あの鍵がないと、家に入れないの!!』
「ふーん、そっか。ま、何とかなるでしょ」
『何とかならないから、追い掛けようとしてるんですけど!?』
二人で言い合いをしている内にも、カラスはどんどん遠ざかって行く。
おそ松は小さくため息を漏らすと首を横に振った。
「分かってないなー廉は。だーかーら、俺がいるでしょうが。俺が」