第5章 探し物
「……ふふっ…随分と大きな独り言ね?」
『え、あ、私、声がね!元から大きい方だから!』
それで納得してくれたのかは分からないが、おばぁちゃんはまた朝食を食べ始めた。
何とか誤魔化せた…のか?
ふー…と一息をつき、私も朝食を食べ始める。
おそ松は、後で一発殴っておこう。
その後、朝食を食べ終わると昨日同様洗濯や掃除に取り掛かる。
掃除中、おそ松は構ってー!と良く話し掛けてくるが、私は気にせずに掃除を続けた。
今度はおばぁちゃんに、聞かれないようにしなければ。
「なぁなぁ、廉。何でさっき、あんなこと言ったんだ?お前のばぁちゃん、前は視えてたんだろ?別に言っても問題はないんじゃねぇか?」
おそ松は寝転がりながら聞いてきた。
『…だから…だよ』
そう、おばぁちゃんも前は視ていた人だ。だからこそ、妖が視える人の大変さも分かる。
だけれど、もう妖との縁が切れた家族をまた引っ張り戻すのは気が引ける。
いや、心配を掛けたく無いという方が正しいのか……
「…バッカじゃねーの?」
『え…?』
おそ松の突然の"バカ"と言う言葉に、掃除をしていた手を止めた。
顔を上げれば、いつの間にかおそ松が目の前にいた。
「…あのなぁ、どうせ廉の事だから心配は掛けたくないとかって思ってんだろ?
……妖の俺が言うのもなんだけどな…もうちょっと周りを頼ったらどうだ?…そうやってずーっと一人で溜め込んでるのはな……辛いだろ?」
突然、グッ…と何かが胸を締め付けてきた。
思い出すのは、辛かった過去の事。
一人ぼっちで……悲しくて…寂しかった。
でも、今は高校で友達も出来て楽しい…はず。
なのに何故か……
『あれ…』
視界が涙でボヤける。自分でも訳が分からない。
何でこんな妖に言われたぐらいで涙が出てくるのだろう。
急な涙に戸惑っていると、不意に腕を引かれた。
目の前が一瞬にして赤くなる。
気付くと、私はおそ松に抱き締められポンポンと子供をあやす様に背中を叩かれる。
涙は止まる所か、更にポロポロと溢れた。
『離して!』
「嫌だ」
『はぁっ?』
「離さない」
おそ松を押し返すが、更に強く抱き締められる。
そして耐えきれなくなった私は、おそ松の腕の中で静かに泣いた。