第3章 心が揺れる時
何回か回った後、廉ちゃんを下に下ろす。
ふらつく廉ちゃんを支えて倒れるのを防ぐ。
ちょっと回り過ぎたかな?
自分のちょっとした悪戯に少し反省していると、頭の中である閃きが生まれる。
「ねぇ、川行こうよ!川!!」
『え?』
「川だよ!ね?良いでしょ?」
今日の廉ちゃん、お手伝いばっかで忙しそうだったし。
息抜きにさ!
『そんな唐突に言われても…』
「えー、良いじゃん!この後予定もなかったよね?」
確か、今日の手伝いはこれで終わりだって廉ちゃんのおばぁちゃんが言ってたんだよな~。
『行くのは止めと…』
「ただいまー」
廉ちゃんが何かを言いかけた時、ガラガラと玄関の引き戸を開ける音が聞こえた。
"おちゃかい"と言うものが終わったのだろう。
視線を横にずらすと、眉の端を下げて笑う廉ちゃんと目が合った。
家から暫く歩くと目的地に到着する。
僕は土手を駆け下り、川にダイブする。僕の周りの暑い空気は丁度良い冷たさの水に変わった。
川の中にいた魚達は慌てた様子で逃げて行く。
それを追いかけて遊ぶ。
そしてふと、水を足で蹴り水面へと顔を上げる。
すると、廉ちゃんが木陰で休んでいるのが見えた。
「廉ちゃんも入りなよー!!気持ちーよー!」
大きく手を振ると、廉ちゃんは小さく笑い、手を振り返した。
泳がないのかな…
僕は大きく息を吸って水の中に潜る。
くるりと水面の方を振り向けば、太陽の光で輝く水と泡。川の流れとそれによって出来るブクブクという気泡の音。
それ以外の音は遮断され、考え事をするには丁度良い。
「好きだーー!!」
大声で叫んでも、廉ちゃんに聞こえる事はないし、この想いが届くことも無い。
この想いを告げるのは簡単だ。だが僕は妖で廉ちゃんは人間。住む世界や時間だって違う。
でもこの想いは溢れてくるばかりで、心が締め付けられる。
それにこの想いは僕だけでなく、おそ松兄さん、カラ松兄さん、チョロ松兄さん、一松兄さん、トド松だって抱いている筈だ。
見ていれば分かる。長い付き合いだから。
…あ、そろそろ上がらないと。廉ちゃんが心配だ。
僕は川の底をおもいっきり蹴った。