第1章 鈴の音
此方に来て早々、会ったのが妖とは……何と運が悪いのだろう。それとも何かの前兆か。
………逃げよう。
私は来た道を戻ろうとする。
しかし、突然手首を捕まれあっけなく阻止される。
私は捕まれた手首を振り払おうとするが力及ばず、更に手首を強く握られた。これでは逃げる事が出来ない。
『離せ』
視線を手首から上げ、そいつを睨み返す。
しかし私の視界に入った妖は、何故か悲しげな表情をしていた。
一瞬疑問に思ったが、別に今の私には関係無いことだ。
また手を振りほどこうとしたその時、林の中からがらがら声が聞こえた。
「ま…て…」
思わず、声がした方に視線を向けると、林の奥に何か黒いモノがいた。
明らかに人ではない、何かが…近付いて来る…
「………こっち」
突然、捕まれていた手首を強く引っ張られた。
危うくバランスを崩しそうになるが、何とか持ち堪える。
しかし、キャリーケースはガタンッ…と音を立て倒れてしまった。
そんな事にも目もくれず、そいつは私の手首を引っ張り、走り始めた。