第3章 心が揺れる時
数回ほど回転すると、床から浮いていた足に畳の感触が戻る。
数回回っただけなのに、軽く目を回してしまった。
それに対し、十四松はなんともないようだ。
「ねぇ、川行こうよ!川!!」
『え?』
予想もしていなかった言葉に、思わず聞き返す。
「川だよ!ね?良いでしょ?」
『そんな唐突に言われても…』
「えー、良いじゃん!この後予定もなかったよね?」
う…確かに今日は他にする事はない。
だが、家を空けとく訳にも行かないし…
『行くのは止めと…』
「ただいまー」
ガラガラと玄関の引き戸を開ける音が聞こえる。
ナイスタイミングすぎる!!
視線を横にずらすと、目を輝かせる十四松と目があった。
━━……
「廉ちゃんも入りなよー!!気持ちーよー!」
バシャバシャと泳ぐのを止めて、此方に手を振る十四松。
それに対し小さく笑い、手を振り返す。
すると十四松はまた川の中に潜って行った。
小学生の時よくお父さんと此処で遊んだのを覚えている。
丁度そこにある低い橋からこの川に飛び込んで遊んでいた。ここの川はある程度の深さがあり、飛び込むのにはもってこいの場所なのだ。
此処の地元の子達と一緒に遊んだ事もあった。
…と言うか、長くないか?
さっき潜ってから一向に出て来ないが…溺れたとか?
いやでも妖だし……妖でも溺れるのか?
中々出て来ない十四松に、若干の不安を感じ、立ち上がって川に近付く。
すると突然、大きな音を立てて水柱が上がり、驚いた私は後ろにしりもちをついてしまった。
その後ろで、十四松は見事に着地を決めた。
少し放心状態でいると、不意に十四松に抱き上げられた。
「廉ちゃんも泳ごう!!」
そう言って十四松は私を抱えたまま土手を上がり、橋の中央の所で立ち止まった。
『ちょっ、一回下ろそう!話し合おう!ね!』
だが私の訴えも届かず、2人は川に飛び込んだ。