第9章 どうして君を好きになってしまったんだろう 【Dear番外編】
「今日“トワ”はどこにいるんさ?」
「ああ、トワならユウが…」
ガチャン…
入り口の扉が開き、白いタキシードに身を包んだ青年が入って来た。
高い位置で留められていた髪は、今は低い位置で整えられ、顔立ちも幾分か大人びていた。
「ユウ!久しぶりさ~!」
飛び掛かってきた戦友に、この日のもうひとりの主役、神田は平手を食らわした。
「ぐぇっ」
「馬鹿兎、少しは黙ってろ…
…トワが起きるだろうが」
相変わらず眉間に皺を寄せる神田はずいっと右手に抱えていた幼児を見せた。
彼似のさらさらした青に近い黒髪に、に似た目鼻立ち。
リナリーが嬉しそうに近づいてきて、その幼児に両手を伸ばした。
神田はその意図を察し、何も言わず我が子を差し出した。
小さな歓声を上げてリナリーはその小さな存在を抱きしめる。
「かわいいっ前より大きくなったね」
「フンッ…俺との子供だ…当然」
そう言って、リナリーの脇を通り過ぎると、その光景を微笑んで眺める自妻がいた。
「他の連中に一通り顔を合わせてきた」
「そう、みんなきてた?
ミランダ、クロウリー…科学班の皆や探索班…婦長も」
神田は頷きそして、の髪に手を添えた。
「綺麗になったな」
「ありがとう、ユウ…あの時、貴方と一緒になれるなんてこれっぽっちも思ってなかったわ」
「ああ、俺もだ」
そう他愛のない話さえも幸せだった
2年前、二人は一度引き裂かれた
それも、同じ団員の少年がに好意を抱き、罪悪感からは彼と身体を重ねてしまったからだ。
二ヶ月の間、二人は別の場所へ離れ離れになったが、が神田との間に新たな命を授かり、再び固く結ばれた。
そうして、は神田と手を固く繋ぎながら彼らの初めての子供、トワが生まれた。
それから千年伯爵との永い激戦に終止を打ち、晴れて今日、二人は姓名を同じにできるのだ。
「ずっと、この日が来るのを待ち望んでた…」
「うん…」
二人は互いの愛を確認するように指を絡めた。
幸せだ…とても…
けれど、自分達だけ幸せでいいのだろうか?
ずっと、ずっと気になっていた事がある…
「ねえ、リナリー」
「え?」
「アレン君は、来てるの?」