第8章 Dear 神田切甘裏【幸せですかの続編】
「……ぅ…」
神田が、小さく呻いた。
「ユウ!?」
顔を上げて彼を見ると、穏やかに眠っている表情から一転し、苦しそうに眉を寄せていた。
「……!」
「ユウ…!」
私を、呼んでいる…
だが
「ユウ!私ここだよ!ユウ!」
何度声をかけても神田は目を覚まさず、呻くだけだった。
「ユウ…」
やっと会えたのに、
やっと言う決心がついたのに…!
「ユウが起きてくれないと、始まらないよ…」
私じゃ駄目なの…?
再び絶望の淵に落とされる。
だが、
“彼を救う事ができるのは、彼女しかいない”
婦長が言ってた。
帰ったら、ユウにしてあげる事…
は神田の白い手を両手で包み込むように握り、彼を見つめた。
私、ここにいるよ
「ユウ…ユウに話したい事があるの」
いっぱいいっぱい…
聞こえないのはわかってる。
けど…止めない
辛い事の方が多いけれど、
その中で一際輝く小さな幸せ、
それは…
「赤ちゃん、出来たの…
ユウと私の…
神様がもう一度、私達を導いてくれたんだよ…」
は手を繋いだまま、神田の頭を撫でた。
「これは運命、そうでしょう?」
その時、
ツ…
ユウの目尻から流れた光があった。
「………っ!」
「おせ…ぇ…馬鹿」
かすれた声と同時に繋いだ手に力が込められた。
ユウが、
奇跡が起きた…
ゆっくりと瞼を開く神田の瞳は少し濡れていて、とても美しかった。
「ユウ…!」
は神田に抱き着いた。
「ごめん、ごめんねぇ…っ」
「チッ、遅ぇんだよ馬鹿…」
いつもの彼の舌打ちと、少し怒りの含んだ声。
けれど何故だろう…
その声は弾んでいる気がする。