第31章 ep5 君の特別
まずい、このままでは…
「おい」
「ってぇ!」
自分を戒めていた腕の力が緩み、は素早く逃げ出した。
振り返ると、そこには見知った青年が、自分を庇うようにデビットを睨みつけていた。
「ユウ…?」
「んだよアンタ!」
デビットはユウに拘束された手を振り回し、鋭い瞳で彼を睨みつけていた。
「こいつは俺の連れだ。悪いが手は出させない」
ス…との前に腕が出される。
ユウの放つ凄まじい気力を感じたのか、デビットは舌打ちして去っていった。
「アンタのモンなら、焼き印でも付けとけよ!」
デビットの姿が見えなくなると、周りから拍手と歓声が飛び交った。
ユウの勇敢な行動に、貴婦人達は再び酔ったような瞳になる。
けれど彼はそれには目もくれず、を振り返った。
「怪我はねぇか…?」
「あ、うん…ありがとう」
は顔を上げられなかった。
きっと彼は、あの端正な顔で自分を見下ろしているだろうから。
「気をつけろ。貴族の中にはおかしな頭の奴らも少なくねぇ……俺の側から離れんじゃねぇ」
そう言ってビリジアンローズの頭を撫でるユウ。
はハッとして顔を上げた。
は、微笑んだ。
「…何だよ…」
ユウが、あの時のような微笑みを浮かべていたから…
作り笑いなんかじゃない。
(これが、素の貴方…)
自分が知っている、素の彼の表情。