第31章 ep5 君の特別
「あの方って…ティエドール家のご子息の…」
「本当に…?いつも夜会には来られないのに…」
「ですけど…なんて麗しいのでしょう…」
貴婦人達は頬を赤く染め、口元を扇で隠した。
周りにいる上級の伯爵達も、ユウの姿を見、興味の色を映す。
上流貴族の視線が集まる程の魅力。
ふとユウの顔を見ると、彼等の視線と声には動じず、近付いてきた男爵に優雅に一礼した。
「やあ、君が夜会に参加するなんて意外だね」
「お久しぶりです、スーマン殿。そろそろ自分も、父の足跡を辿るのではなく、自立して行こうと思いまして……と言いましても、今回は父の代人として参加しただけなのですが」
「ハハハ、そうか。君の父も糧は大きいが、いつか君と酒を手に話せる事を夢見ていたよ」
「申し訳ないのですが、自分はまだ未成年なので、アルコールの強いものは…」
そう言って手を叩けば、薄い葡萄酒をグラスに注いだラビが、優雅に歩み寄った。
ユウはそれを手に取ると、目の前のスーマン伯爵に見せるように上げた。
「これで抑えてもらえますか?」
行動、言葉に無駄が無い。
スーマン伯爵は口端を釣り上げ、高らかに笑った。
「ハハハッ、まだ未成年だったのか。随分と逞しかったのでつい、ね」
そう言ってユウの肩を抱く。
周りに穏やかな空気が流れる。
ユウの外見を恐れ、近付けなかった貴族達が先程の会話を聞いて、安心したのかユウに話しかけに来た。
ラビは、人々に飲み込まれそうになっていたの腕を引き、テラスまで連れ出した。