第31章 ep5 君の特別
―――…
マリアン邸は、ティエドール邸と並ぶ程の面積があった。
下手をすればティエドール邸を越える程かもしれない。
上を見て口を開けるのを我慢して、は辺りを見渡す。
(凄い…)
周りは全て貴族、貴族、貴族。
美しい色とりどりのドレスを身に纏う女性貴族と、彼女達を優雅にエスコートする紳士的な男達。
皆が皆、この場に相応しい人達だった。
は自分がひとり、違う空気を纏っている気がして思わず、ユウの背中に隠れた。
「………」
「えっと…ごめんなさい。なんだか、緊張してるみたいで…」
背中越しにユウに言った。
「お前…自分が場違いとか思ってるんじゃねぇだろうな…?」
「ぇ…?」
にしか聞こえない、呟くような声。
は顔を上げ、ユウを見上げた。
「確かに、お前を連れて来た理由は、従者としてだと言ったが…」
くるりと向きを変え、ユウはを見下ろした。
「………?」
「パーティーは初めてだろ?お前なりに楽しめばいい…」
そう言って再び前を向いてしまったユウ。
けれど、にはその彼の背中がとても優しく見えた。
いや、彼は元々優しいのだ。
ただ不器用なだけで、こんなにも自分を気にかけてくれる…
(ありがとう…)
がそう思ってふと顔を上げると、周りの貴族達の視線を感じた。
(え…)
何かおかしいだろうか、と不安になり、自分の格好を見下ろした。
けれど彼らの視線は、ではなく、その前の美男子に注がれていた。