第29章 ep3 貴族の事情
―――…
(此処にもいない…)
はぁ…と白い息を吐く。
(何処に行ったんだろ…)
キャベツ畑、中庭、玄関…様々な場所を回ったが、あのロシアンブルーの姿はない。
一度戻ってもう一度捜そうか、そうも考えたが、あの猫もこんな寒い中、凍えているのかもしれない…そう思うと自然と身体が庭の奥に進んでいく。
(寒いなぁ…)
きっとチェシャーも、この寒空の下にいるのだろう。
小さい身体を必死に温めようとしているのだったら、自分が早く見つけてあげねば。
「あっ!」
踏み締めた固い地面に足を滑らせ、は転倒する。
そこに容赦なく、凍てつく風と雪が降ってくる。
身体を起こしたは所々に走る痛みに顔をしかめた。
「い…っ」
昨日、ロードに誤って熱湯をかけられた手が、じんと疼く。
急いで出て来たので、大した靴も履かず、スリッパでいたので、足が、かじかみ凍りついている。
薄い服を、12月の本冬の風が容赦なく貫いていく。