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songs(R18)

第29章 ep3 貴族の事情





―――…



はユウの仕事部屋の前で、深呼吸を繰り返していた。

彼のいる部屋に入る時は、いつもこうして精神を落ち着かせて入っている。

ただでさえドジな自分は、こうして落ち着く他に術はない。


(……よしっ)


はぐっと拳を握り、決意したように扉をノックした。


「失礼します、・・・御呼びでしょうか?ユウ様」


そう問い掛け彼の姿を見ると、ユウはいつものように切れ長の瞳で書類に目を通していた。

その姿さえも、絵にそのまま入ってしまいそうだ。

の視線に気付いたのか、ユウはちらりと彼女を見た。
そして、持っていた書類を机に置き、席を立つと窓の外を見つめ始めた。


「あの…」

どうしたらいいのかわからなくなって、はユウを見た。


「花…以前と同じものをラビに注文させておいた…」

「…え…?」


ユウはこちらを向かず、そのまま視線を白い花瓶に映した。

「あの花…また挿してくれるか?」

「………!」


今は何も挿されてない白い花瓶。けれどもう一度…もう一度ユウはにあの花飾を挿してほしいと言った。


「あれ…気に入って下さったんですか…?」

「………」

無言の同意。

は目を輝かせた。
けれど直ぐに思い出したように、俯いた。


「あ…でも…」

ユウは悲しそうに目を伏せるを向いた。

「ロード様が…新しいお花を生けるとおっしゃっていたので…」

残念そうに目を細める。

「その後でいい…」

ユウは立ち上がって、に歩み寄ってきた。

「え…あの…」
近づいて来るユウに、は無意識に頬を赤らめる。

彼の瞳に、自分の姿が映る程近くまでユウは近づき、の頭にそっと手をのせた。

「あいつが帰ったら…また飾ってくれ…」


僅かに、

僅かにユウは微笑んで、部屋を後にした。

残されたは、頬を押さえて壁に寄り掛かった。


(どうしよう…ユウ様が…)


ユウが、自分に頼み事をしてくれた。
彼に頼られる事が、こんなに嬉しいとは…



ほてりがとれないまま、はしばしそのまま、座り込んだ。


彼が頭に触れた感覚が、彼女の中で鮮明に残っていた…



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