第29章 ep3 貴族の事情
ーーー・・・
「フンフフン~♪」
「もうっやってられないわよ!」
廊下を軽い足取りで歩いていたロードは、自分が泊まっている客室からの怒鳴り声に、足を止めた。
―――…
ミランダは突然声を荒げた同僚に、戸惑いがちに尋ねた。
「あの…何をそんなに怒ってらっしゃるの?」
自分よりも2、3若い使用人二人は、溜め込んでいた怒りを吐き出すように言った。
「何って、あの我が儘お嬢様の事よ!もう信じらんないわ!!」
「ロード様…の事かしら?どうして…」
ミランダは首を傾げた。
「いきなり来て、ユウ様の婚約者になるですって!?」
「おまけに厨房はやりたい放題だし!この部屋だって…趣味の悪い飾り付けまで…!」
ミランダは二人の使用人が言うように部屋を見回す。
確かに、この客室は少女趣味に彩られ、元の部屋の影も形もない。
これは、ミランダも苦笑する他、なかった。
「ま、まぁでも…もうすぐいなくなるんじゃないかしら…」
「そんな訳ないわ!きっとユウ様を落とすまで此処に居座るつもりよ!!」
「お、落とすって…」
使用人は額に手を当てて重い息を吐く。
「ああ…あんなにお美しいユウ様が…あんな小娘にぃ…っ」
「あら、でもそれはないかもしれないわよ?」
もう一人の使用人が口を開いた。
二人は彼女を向く。
「ユウ様には、がいるじゃないの」
その言葉に、使用人は頷いた。
「ああ、そうよね。がいるものね」
「ど、どうしてちゃんが…?」
ミランダの問いに、使用人二人は首を傾げた。
「え?ミランダ、知らないの?」
「ユウ様、この前に私達が知らないうちに熱を出されたそうよ?
それでが看病して、ユウ様と一晩一緒にいたっていう…」
その話を聞くと、ミランダは耳まで赤らめた。
脳裏に先日の記憶が蘇る。
(やっぱり私…の部屋を間違ってなかったんだわ!)
あの時はたまたまユウが室内にいただけであって、本来はの部屋だったのだ。
ミランダは内心、安堵の息を漏らした。