第29章 ep3 貴族の事情
―――…
「薔薇なら…深紅しかないんじゃが…」
「それでいいよぉ~」
「ありがとうございます」
庭師からディープローズを貰ったロードの後ろで、ティキは頭を下げた。
続いても頭を下げる。
「じゃあ、僕は先に戻るからねぇ~」
そう言って薔薇を抱えたロードは屋敷に戻っていった。
「…すみませんね、我が儘な主人で」
隣にいたティキが口を開く。
「え…?」
は彼を向いた。
の視線に気づき、ティキはぎこちなく微笑んだ。
「ロードは人を玩具にするいや~な趣味があるんですよ。だから、今回もお宅の旦那に求婚してんのも…単なる遊び心なんですよ」
「遊び心…?」
「困ったものですよね~まあ、まだ12歳ですし、これからこの貴族社会の面倒臭さがわかってくれればいいんですけど」
そう言って苦笑いを浮かべるティキ。
その表情さえ、女性がほって置けない魅力が出ているのは、彼の計算だろうか?
どのみち、この鈍感な少女には、ティキの作戦など見破る事はできないのだろうが。
「そんな気持ちじゃ…ないと思います」
「…へ…?」
堂々と庭で煙草を吹かすティキは目の前の少女を見下ろした。
「遊び心だったら…あんなに必死で…他人の為にはしないと思います」
お菓子を作ったり、薔薇をいけたり…
人を玩具にするのが好きな筈なのに、それでは自分が玩具になっている。
「本気で…本気でユウ様の事が好きなんですよ…ロードは」
はティキを見上げた。
その少女の瞳には、ティキでさえ煙草を落とす程の強い何かが宿っていた。
が、
「ま、ロードが本気なんだったら俺には止める権利はねぇけどな。
もちろん、あんたにも」
「え…?」
は小首を傾げた。