第29章 ep3 貴族の事情
「ユウ?どこ見てんの~?」
「いえ…」
ロードは少し怒った様子で、ふと仕事机にあった花瓶に目を落とした。
「この花何~?うっすい色~」
淡い色合いの花が注されたそれを持ち上げる。
とラビが振り向いた。
「あ…」
が短く声を上げた。
あれは…あの花は、一週間前、が生けた花だ。
けれどもう日は経ち、どれだけ美しくてもやはり枯れかけていた。
いつもなら、恐らくあれを代えるのはラビの仕事なのだが…
はラビを向いた。
ラビは苦笑いを浮かべて、呟くように言った。
「…だってさ、せっかくが生けたのに…勿体ないさ。
ユウだって…結構気に入ってたのに」
「え…」
は僅かに目を見開く。
ロードはラビの言葉を聞き逃さなかった。
(ふぅん…が…)
胸の辺りがざわめく。
(そうなんだ…)
「じゃあ僕が新しい花を射してあげるね~」
「なっ!」
ラビの独眼が見開かれる。
その瞳の中に、激しい怒りの情が映り、は彼の服の袖を掴んだ。
「ラビっ…」
制するをニヤリと見つめ、ロードは花瓶の花をくしゃりと握り潰す。
「僕が可愛~い花を飾ってあげるからねユウ~」
花びらが書類の上にヒラリと落ちる。
「僕の大好きな薔薇で…」
ユウを覗き込むと、彼が静かに自分を睨みつけている事に気づいた。
けれどロードはそれに気付いていないフリをして彼から離れた。
「さ、ティッキー、庭師にお花貰いに行こ~…も来て」
そう言ってロードはユウから離れて、部屋を出ていく。
「あっはいっ」
「御意…」
ティキはユウに深く頭を下げながら、と共に部屋を去った…