第29章 ep3 貴族の事情
―――…
「ねぇ~ユウ、僕が作ったクッキー食べてくれた~?」
翌日、彼の仕事部屋に乗り込んできたロードは、彼の首に抱き着きながら尋ねた。
「はい。頂きました…」
書類に目を通したまま、ユウは答えた。
「美味しかったぁ?」
「ええ、甘味が少なく、食べやすかったです」
まるで機械的に答える彼に、ロードは気付く事なく嬉しそうに跳びはねる。
「でしょでしょ~♪ユウは甘いもの嫌いっぽかったから、シュガーを入れないでドライフルーツ入れたんだ」
「そうですか…ご配慮、ありがとうございます」
「“だんご”も食べた?東洋のお菓子♪あれも僕が作ったんだよぉ~」
ロードは嬉しそうに話す。
そんな彼女を見て、ラビはちらりとを向いた。
ラビの視線に気づいたのか、さっと包帯で巻かれた両手を後ろに隠した。
そして、ぎこちなく笑みを浮かべる。
ラビはを心配そうに見つめた。
は両手に火傷を負っている。
彼女は誤って沸騰したポットを倒してしまったから、と言い訳していたが、紛れも無くロードが関わっているだろう。
「大丈夫さ?」
こっそりに耳打ちする。
「うん、平気よ。それより…ユウ様が気に入ってくれてよかった…」
は何事もなかったかのように頷き返した。
「でも、めちゃくちゃさ…あの子…」
「一生懸命やってるのよ。仕方ないわ」
自分がこんな目にあったのに怒りもしない…
それは彼女がお人よしだからだろう…
そう言われると、こちらも何も言えない。
けれど
「何かあったら言うさ…」
ラビはの頭を撫でながら言った。
「ありがとう、ラビ」
は微笑んだ。
ユウの視線にも気づかずに…