第29章 ep3 貴族の事情
―――…
「このローズヒップティーおいし~」
「ありがとうございます。……ではユウ様、ご用がありましたら、お申し付け下さい」
無駄のない動きで一礼し、ラビは応接室を出ていった。
「かっこいい執事だね、彼」
「いえ、執事ではなく、使用人です」
苦手なローズヒップを口にしても、顔色一つ変えないユウ。
(ラビ…いつか殴る…)
そんな黒い感情を腹の底に秘めながら…
「ふぅん…なんか変わってるね」
ロードは楽しげに目を細めた。
「今日はどう言ったご用件で?」
ユウはロードとティキとを交互に見つめた。
「ああ、そうそう…忘れてたよぉ……ティッキ~」
パンパンッとロードが手を叩くと、ティキは笑みを浮かべたまま包装された品をユウに差し出した。
「旦那様が地方で見つけた珍しい骨董品です。この度は、お近づきの印しにフロワ伯爵に」
「お気遣い感謝します」
ユウは相変わらず表情一つ変えずにそれを受け取った。
そんな彼の様子を、ロードは面白そうに頬杖をついて眺めていた。
「この度は、我がキャメロット邸の旦那様の体調不良のため、環境転換のため、本国の首都に移建しました。
旦那様は持病で寝たきり…代人として、娘のロード様がご挨拶に参りました」
「そうですか…確かキャメロット邸は、英国の端に位置していましたね。遠方からご苦労様です。我が屋敷で申し訳ありませんが、どうぞゆっくり体を休めて下さい」
「ありがとぉ~」
ロードがにっこりと笑む。
ティキは深く頭を下げた。
ロードは大きな瞳にユウを…ユウだけを映して言った。
「…ユウ・D・ティエドール…だっけ?」
テーブルの上のクッキーに手を伸ばす。
その動作をちらりとユウは見て、再び視線を彼女に戻す。
小悪魔めいた瞳と目が合う。
「ふぅ~ん…」
「…それが何か?」
ユウの問いに、ロードはニッと口端を吊り上げた。
「…僕、ユウの事気に入っちゃった♪」