第28章 ep2 深孤の優しさ
けれど、それは叶わなかった。
「………?」
自分の手を引く、彼の手があったからだ。
は不思議そうに振り向いた。
「…ユウ様?」
ユウはの手を握ったまま、小さな声で言った。
「…ここにいろ…」
は目を見開いてユウを見た。
ユウは熱のせいか、赤くなった顔を隠すように向こうを向いていた。と言っても、ランプだけの淡い光の中、赤くなっているのかはわからないが…
「朝が来るまで…俺の隣にいろ…」
そしてには、彼がこう言ってくれる事が、嬉しくてならなかった。
「…はいっ」
きっと、彼なりに甘えてくれているのだ。
はユウの手を両手で包み込むようにして握り、彼の側に座り込んだ。
「安心して…眠って下さい。私がずっと此処にいますから…」
そうやって今だに自分の手を握ったままの彼の手を優しく撫でる。
ユウは何も言わず、けれど随分と安らかに…目を閉じた。
次第に握られた手からも、力が抜けていった。
穏やかな寝息が聞こえてくると、は完全に彼が眠った事を確認した。
(よかった…)
自然と笑みが零れる。
彼が…自分に心を開きかけてくれた事が嬉しくて…
はハート型のロケットを見つめた。
「………」
ずっと…このままずっと、時間が止まればいいのに…
と、無意識に思っていた。
無意識なので、彼女もこの想いに気付く筈はなかった。