第28章 ep2 深孤の優しさ
―――…
「わっ!」
どんっと曲がり角で誰かとぶつかった。
「ごめんなさい!」
は振り向きもせずに駆けて行った。
残された使用人…ラビは呆然とその背中を見送っていた。
「………?」
厨房から戻って来ると、は持ってきた手ぬぐいを氷水の入った桶に沈めた。
ギュッと絞った手ぬぐいを、ユウの額に乗せる。
心配そうに、はユウの顔を覗き込んだ。
(きっと…あの池の中に入って探してくれたのね…)
彼のいる部屋のすぐ隣で叫んでしまったから、きっと聞こえてしまったのだろう。
そして煩いと思い、バルコニーへ様子を見に出て来たに違いない。
池の中をずっと探してくれていたのだろう…
ラビが彼の事を探していた。
冷たい冬の、池の中を…ずっと…
(でも…どうして…?)
どうして自分の為に…ここまでしてくれたのだろう…
(ずっと、嫌われていると思っていたのに…)
「う…っ」
ユウが苦しそうに呻いた。
本当に辛そうだ。
何かできないかと、は彼を見た。
すると、彼はまだ仕事をしていたのだろうか?
スーツを着て、ネクタイもきっちり絞めている。
(これもきっと…辛いよね…)
はネクタイに手を掛けた
が、
「いい…」
熱い手で掴まれた。
目が覚めたのか、切れ長の瞳は真っ直ぐにを見つめていた。
「ユウ様っ」
ユウは上半身を起こした。
「な、何をしてるんですか!?」
「仕事に戻る…」
「だ、駄目ですっ何言ってるんですかっ。熱があるんですよ!?」
慌ててユウの身体を押し返す。
「やらなきゃいけねぇ仕事が…まだ残ってんだよ…」
その瞳はどこか虚ろで、息遣いも荒いままだ。
それでもなお、彼は身体を起こそうとしていた。
「駄目ですってば!」
はユウをベッドに押し倒した。