第28章 ep2 深孤の優しさ
代わりに、フロワは…
「んで、これが御主人の依頼さ」
「………」
父の絵や陶器は世界に通用する程のものだ。
数々の有名賞が彼を認め、知らぬ間に贈られてくる。
彼は趣味でしていると断るのだが、否定されるより酷な事はないと、このラビに言いくるめられてこの仕事に身を置いていた。
この依頼と言うのは、先日、彼が描いた絵を見た彼(か)の有名美術館の館長が館内に飾りたいという内容だ。
「これはあの人の仕事だ。俺に承諾する権利はねぇ」
と、汚れ物を見るような目でそれを除けさせた。
ラビはその書類をしまうと、窓の外に目をやった。
中庭に見知ったビリジアンローズの髪の使用人が、年老いた庭師と話している。
此処からでも、あの愛らしい笑顔が見える。
「やっぱ可愛いさ~は。ユウもそう思わん?」
そう言って、ユウを振り返る。と、他の書類に目を通していた彼は面倒臭そうにこちらを向いた。
「…?」
「一週間前、うちに入ってきた子さ」
そう補足しても、まだ名前と顔とが一致していない様子。
ラビは仕方なく、一呼吸おいてこう補足した。
「…ユウの昼寝邪魔した使用人」
それを聞くと、面白いくらいに目を見開くユウ。
そして思い出したのか、目つきがどんどん悪くなっていく。
「もう許してやってさ~はすっげえ引きずってるんさ」
「別に怒ってねぇ。過ぎた事だ」
そう言って再び仕事に取り掛かるユウ。
「…なんかさ、不思議な子なんさな。裏表がないって言うか…ピュアなんさね」
楽しそうに庭師と話しているを見つめながら、ラビも自然と笑みが移る。
「ユウも話してみたらどうさ?きっと女嫌いも治…」
「余計な事言うんじゃねぇ。結婚なら今年中に婚約者を決める」
鋭い視線がラビを射抜く。
「…ユウ……」
「女なんて金目当てで近づいて来て、都合の良いように言いくるめてくる。そして自分が不利な状況に陥ればすぐに涙を流す…そんな奴らだ」
そう、自分が今まで惚れそうになった使用人や貴族は…そんな連中ばかりだった。
機械的に浮かべた笑みの裏で、自分の背後の上流貴族の座を血眼で見つめている。
自分自身を見てくれる奴など、いない…