第28章 ep2 深孤の優しさ
ちょうどその時、入り口の扉が開いた。
「おっユウ。お茶でも飲むさ?」
「いい。そんな暇ねぇ」
貴族にはあるまじき乱暴な口調。
けれど長く美しい髪は既に乾かしており、きちんとネクタイまで絞めている。
すっかり仕事モードに入っているようだ。
まったく、この男は休む事を知らない、とため息をつきたくなる。
半ば呆れ気味に自分を見てくるラビに、ユウは小さく舌打ちして椅子についた。
その仕事机にラビはバサッと書類を置いた。
「現時点で、英国でのティエドールメーカーの売れ行きさ。新型のロングは王宮でも使われるらしいさ」
ラビの説明を耳に挟み、切れ長の瞳で書類に目を通すユウ。
ティエドール家は代々、戦闘武器を取り扱うメーカーである。
その新型のロングソードが首都ロンドンにある王宮の兵士の腰に挿されるそうである。
この書類はそれの承諾を求めるものだろう。
「これはユウがいつも稽古で使ってるやつだろ?すげえさっ」
ラビの言葉を無視して、ユウは印を押す。
というか、これらの類のものは全て彼が作っている。
長さ、光沢、切れ味全てを考え試作品を作り、それと同じものを信用している業者に製造させているのだ。
三年前、ユウが15の時からこの仕事を務めている。
父であるフロワもこの仕事に務めていたが、よく投げ出していた。
仕方がない。
彼自身が非常に穏やかなため、争うためのものは作れなかったのだった。