第27章 ep1 昼下がりの出会い
(それにしても…此処は何の部屋なの…?)
豪奢なティエドール邸には珍しい、質素な部屋だ。
白い部屋…寝室とでも言うのだろうか?
とにかく、貴族には似つかわしくない必要最低限のものしか置かれていない。
キングサイズのベッドにサイドテーブル、クローゼットに白いカーテン…そしてソファー。
はその上質な革でできたソファーで横になっている人物を見つけた。
よりも2、3年上の青年だ。
コバルトの空のような神秘的な青。それは絹のように美しくソファーに流れていた。
目鼻のすっと通った、整った顔立ちは女性のようだが、締めたネクタイとシャツが作り出す体のラインは細身だが、しっかりと男のものだ。
(執事さん…?)
ラビのような使用人がいるのだから、こんな美形の執事がいるのも納得できる。
(今は休憩の時間?)
寝ているなら、起きないうちに此処から去ろうとしたが、は立ち止まった。
彼の美しい顔を、もっと見ていたいという衝動に駆られたのだ。
自分の数少ない知り合いの中で、彼ほど端正な顔立ちの男性はいない。
ラビよりも整っているだろうか?
(本当に綺麗…)
時が許されるなら、いつまでも眺めていたい。
けれど、が彼の寝顔を堪能する事を許す者は、時間ばかりではなかった。
人間とは違う、これまた端正な猫の顔が、真っ直ぐに自分を見つめていた。
窓際に、が追いかけていた猫が満足そうに座っていた。
「ミャーオ!」
「っきゃあ!!」
は甲高い短い悲鳴をあげて腰をついた。
鼓動が速まる。
猫に驚いたからでもあるが、これから起きてしまうであろう目の前の男にあった。
(どうしよう…どうしよう…!)
そればかりが頭を渦巻いていて、逃走するという選択肢はの脳内にはなかった。