第27章 ep1 昼下がりの出会い
ーーー・・・
「大きい…」
それが、少女が初めてティエドール邸を訪ねて呟いた言葉だった。
ビリジアンローズの深い赤髪は、横髪だけを伸ばし、残りは肩の上で切り揃えている。
吸い込まれそうな翡翠の瞳で辺りを見渡す。
「ほ、本当に此処でいいんですか…?」
地図のとおりに進んできたが、まさかこんな都会外れの場所に、名門貴族の屋敷があるとは…
振り返り、自分を乗せてきた使用人の男性に尋ねると、柔らかく頷き返された。
「はい。こちらがティエドール伯爵の本邸にございます」
「へ…へぇ…」
目が遠くなりそうな程の広さ。
案内されるままに屋敷へと入ると、大理石の床にずらりと立ち並んだ使用人に迎えられた。
「ようこそ。ティエドール邸へ」
使用人だというのに、客人のようなもてなしに戸惑う。
「はじめまして、ラビっす」
スーツを着こなす使用人達の中でも随一目立つ容姿の青年が近づいてきた。
赤髪に端正な顔立ち、
おまけに独眼…目立つ要素を兼ね備えていた。
そして人懐っこそうな笑みを浮かべる。
「アンタ、名前は何て言うんさ?」
独特の話し方に戸惑う。
が、なんとか彼の目を見て答える。
「…です」
すると、ラビは独眼を見開いたまま、言葉を発しなくなった。
何かまずかったか、と周りの視線を気にするが、どうやら周囲の人物の視線はラビだけに注がれているようだ。
「また始まるわ…」
「困ったものだ…」
そんな囁きが聞こえたのもつかの間、突然に腕を引かれ、大きな胸に抱きすくめられた。