第18章 何度も 神田切裏
「えと……昨日助けてくれたでしょ?また会える気がして、その時渡そうと思ってたんだ」
はさげていたバスケットから、金と青で編み紡がれた髪紐を差し出した。
端に印象付けるような赤い宝玉が輝いている。
「ちょっと汚れてるみたいだし…助けてくれたお礼に…
この間、街に移動雑貨の商人がきててね、そこで貰ったの」
そっと髪紐を手に乗せて神田に差し出す。
神田はと髪紐を交互に見て、彼女にもわからない程、小さく微笑んだ。
そして掌に乗せられた髪紐を手に取ると、慣れた手つきで今縛っていた髪紐を解いた。
ぱさりと縛るものから解放された艶めく髪は、滑らかに彼の背中を伝っていく。
神田の細長い手がそれを再び集わせ、が渡したもので縛った。
神田はを向くと、彼女は愛らしい笑みを浮かべてこちらを見ていた。
「…これで満足か?」
「うんっ凄くいい!」
その無垢な笑顔に、自分の本来の任務を忘れそうになる。
「…」
急に神田の声が低くなり、彼との距離が縮まった。
「ぁ…え?」
「俺が、好きなのか…?」
彼の顔が目と鼻の先にある。
彼の手が自分の手を掴むけれど、それが愛おしくて離せなかった。
「なんで…そん、な事…んっ」
言葉を繋げず、唇を重ねられる。
触れるだけのそれは、直ぐに離れて、沈黙だけが訪れた。
「………」
放心状態で、は先程重ねられた唇に指を押し付けた。
(キス…したの…?)
どうして…?
けれど後から底知れない嬉しさが込み上げて来て、は神田を見つめた。
彼の顔は、夕日に照らされてか…朱くなっていた。
「ねえ、これって…」
私の思うようにとっていいの?
神田はから目をそらした。
にとって、それは肯定のようなもので、握られた手を握り返した。
不思議…
こんなに幸せで…
あなたに出会えて…
もう、周りなんて見えなかった…
そう、何にも見えてなかったんだ
私、馬鹿だったから…
あなたは必死で私を守ってくれていたのに…
私は、あなたとの先の事ばかり考えていた…
あなたにあげなければよかった…
あのままなら、私はもっとあなたの側にいられたのに…
失ってしまうならもう一度、
あの瞬間に戻りたいよ…