第17章 恋愛写真 クロス切裏【HEAVEN番外編】
「これで、お前は死んだ…」
低い声で男は言った。
「…っ…!」
バランスを失っては床に倒れ込む。
指先に柔らかな感触がある。
は目を開いた。
「……!!」
最初、首筋がひやりとして首を切られたのだと思った。
だが床には血飛沫も無いし、代わりに見慣れたものが、そこにあった…
(私の…髪…)
の、他の貴族が敬うような美髪が落ちていた。
切られたのは自分の首ではなく、自慢の髪だった…
けれど今のにとってその髪自体はどうでもよかった…
は男を向いた。
男は不敵な笑みを浮かべて自分を見下ろしていた。
「これで今までのお前は死んだ。今のお前は貴族でもなんでもなくなった。……自由の身だ」
短剣をしまい、男は言った。
トクン…
の胸が高鳴った。
彼は…死にたいけれど、死を恐れる自分の望みを叶えてくれた…
自分を…殺してくれた
過去の消滅と同時に貴族だった美しい髪も失ったが、
今の自分は自由…自由だ…
その時、ちょうど目的の港が見えた。
港町の奥にそびえ立つ豪邸がの屋敷だった。
「師匠!!」
と、彼の元に白髪の少年が駆け寄って来た。
手には男の荷物だと思われる黒いアタッシュケースを引きずっている。
男はに背を向けて歩き出した。
「どこへでも行けばいい。お前はもう貴族じゃねぇんだ」
雨が止み、灰色の雲の隙間から柔らかな光が射す。
その光に照らされた赤髪は本当に美しい。
「私を連れて行って下さい!!」
は叫んでいた。
男の足が止まる。
「私は…自分で何かをやり通したいんです!
貴族とか、影の権力なんて使わずに、自分の手でやってみたいんです!!」
激しく脈打つ鼓動を抑えるように胸に手を当てる。
何故この男に惹かれているんだろう…
彼が何者かも知らないのに…