第17章 恋愛写真 クロス切裏【HEAVEN番外編】
自害するのなら誰にも邪魔されない。
だが、いざ死を前にすると…
「どうした?早く楽になりてぇんだろ?」
男に促され、はゆっくり短剣を持ち上げた。
曇天の空に、それは意味ありげにその存在を象徴する。
カタカタと手が震える。
これを振り下ろす勇気が、自分には無いのだとわかっている。
だが、自分が此処で死ななければ、一生貴族の籠の中で飼い殺されてしまう…
そんなのは嫌だ!
「……っ…!」
はきゅっと瞳を閉ざした。
だが、
それを振り下ろす事はできなかった。
自分で自分を殺すのが怖くて…
もっと…もっと生きたい
けれど貴族としては嫌だ…
そんな矛盾する思いがの中で渦巻いていた。
は降り注ぐ雨に紛れ涙する。
その姿は雨乞いする神子のように美しかった。
カラン…の手から短剣が滑り落ちる。
「死ぬのが怖ぇんだろ?」
男は喉の奥で笑う。
「自分がまだ何も出来ずにいるんなら、特にな」
男はの腕を掴んだ。
「俺が殺してやろう」
「…!?」
は反射的に身じろぐが、尋常じゃない力で腕を掴まれて後退できない。
男はいつもの笑みを浮かべたまま落とした短剣を握りしめた。
「ぃ…っ」
「止めろ!動くな!!」
父の声が聞こえる。
振り向くと彼は、護身の銃を構えこちらに向けていた。
「剣を捨てて娘を返せ…!」
カタカタと、銃を支える手が震えている。
けれど男はそれに動じず、の身体を引き寄せた。
「素人が物騒なモン扱うな。
大事な娘に当たんぞ」
「ぐっ…!」
父は悔しそうに唇を噛んだ。
元々ロックが掛かっていたのに気づいていたので脅しだとはわかっていたが、銃を下ろす貴族を見て男は不敵に微笑んだ。
「何が目的だ…!」
「この死にたがりで臆病なお嬢さんの願いを叶えてやる」
びくっとの身体が震える。
「ゃっ…」
「なに、ちっとも痛くなんかねぇよ。一瞬だ、一瞬」
男はぐいっとの美しい長髪を掴んだ。
「やめろ!!」
父が叫ぶ。
は目をつむった。
ザンッ