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songs(R18)

第16章 HEAVEN クロス切裏





「ったく、何してやがる」

店の奥から、の一番逢いたがっていた者が姿を現した。

「クロス様…っ」
「こんな所まで遥々きやがって…追い返されるのが目に見えてるだろ」

そう言って、クロスは再び踵を返した。

「待って!私は…っ」

クロスに手を伸ばした所で、ぐらりと世界が傾いた。


「っ!」

薄れる意識の中で、は確かに、クロスが振り返るのを見た。





―――…



「ぅ…っ」
「まったく…過労で倒れるとは、とんだ世話を焼かせてくれるな」

すぐ側で香る煙草の匂い。
ガバッと身体を起こし、は隣を振り向いた。

天蓋のついた豪奢なベッドに寝かされていた自分のすぐ側で、彼はいつものように煙草を吹かしていた。

「クロス…様?」

やっと…逢えた…

「何を泣いてる?そんなに辛かったのか?俺にフラれた事が」

クロスは口端を釣り上げ、の髪を梳いた。

は首を振って否定し、涙を零しながら、クロスを見つめた。

「また逢えて…嬉しくて…っ」
「どれだけ泣いても、俺はお前を連れては行かないがな」


クロスとて、これは曲げる気はなかった。


いくら彼女の健気さに心を揺さぶられたとしても、これだけは歪ませない。


これ以上…自分の愛する者を危険には晒させない。


自分は愚かだ。
こんな美人をいくらも愛し、最後には泣かせてしまう。


自分に人を愛する資格などない。
けれどそれを承知でやって来るお前は、もっと愚かだ…



「わかっています。
貴方が一度決めた事は、決して曲げない事を…
私も、その決心を歪ませる事は致しません…」

「あぁん?」


は身体を起こし、彼を見据える。

「私は今でも貴方を愛しています。初めてお会いした時から、ずっと…ずっと…


ですから、これ以上貴方にご迷惑をおかけしないよう、貴方にはついて行きません」


ですが、とは持って来た荷物の中から、数週間前に貰ったオルゴールを取り出した。

中を開けると、美しい音色と共に一輪の黄色いチューリップが添えられていた。

「“実らぬ恋”という花言葉のこの花…お返しします…

私は貴方と離れても、貴方を愛し続けます。

それだけが私の生き甲斐…貴方は私の全てですから…」



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