第14章 SNOW KISS アレン切裏
あれから五日。
病室にはぱったりと人が来なくなり、看護婦が朝食を運びに来るだけだった。
けれど今日は違った。
アレンの友達という赤髪の青年が来た。
「どもっ。ラビっす」
陽気な口調に、はやや警戒しつつ頭を下げた。
「どうも…」
「ハハハ、そんな警戒せんでいいさ。
アレンからアンタに伝言預かったんさ♪」
は目を丸くした。
「え…!?」
ラビはそんなにニヤニヤと口元を緩めながら言った。
「任務先が少し長くなって、帰るのに後五日掛かるって」
「五日…」
任務で…遅くなるんだ…
「それと」
「…?」
ラビを見上げると、ラビはニッコリと微笑んだ。
「帰って来たら、伝えたい事があるんだと♪」
「え…?」
「いやあ、アレンにもやっと、て感じさね♪」
ラビはそう言うとの頭に手を置いた。
そして、と目線を合わせる。
「ま、よろしく頼むさ」
アレンは俺の弟みたいな奴だからな、と付け足して部屋から出て行った。
またひとりになったは熱くなった頬に手を当てた。
「伝えたい事…って…」
これは、好機なのかもしれない…
何だろう…内容は、だいたいわかっているのに、嬉しくて…
アレンが、私を…
けれどはすぐに現実を思い出して俯いた。
(どうしよう…私はノア。
アレンを好きになるなんて、許されない)
けど伯爵や他のみんなだって大事だ。
デビットは心配してくれているのだろう。
それなのに私は、
別の男を好きになってしまった…
禁じられた想いは、きっと実らない…
なら、いっそ…
「…忘れよう…」
帰ろう、ノアのみんながいる場所に――…
いつかはアレンは自分がノアだと知り、私を殺さなければならないだろう。
その時、一番傷つくのはアレン。
なら、あなたが何も知らない今なら、まだ間に合う。
私がこのままいなくなり、正体を偽ってノアを名乗ればいい。
それなら、全てが元に戻る―…
私が、心の悲しみを受ける代償になら、
アレンを傷つけないのなら…
「安いものよ…」
ぽろぽろと涙が零れる。
「ふっぅ…」
悲しい、悲しすぎる…
は静かに泣き続けた。
そして次第に意識が遠退き、眠りについた―…