第14章 SNOW KISS アレン切裏
(どうする…?どうする?)
「もしかして、記憶がないんですか?」
「え…?」
アレンが唐突に言った。
自分が尋ねても、ずっと黙りっぱなしのを見て、記憶がないのだと思ったのだろう。
「崖の下に倒れていたんで、崖から落ちたんですね。
その時に頭を打ったのかもしれません…」
かわいそうに、と悲しげにを見つめる。
「いえ…」
とにかく、ここは向こうの話に合わせるしかない。
は記憶を失った一般人として、怪我が治るまで敵側である黒の教団にいる事になった。
という名前だけは覚えている事にして。
(まあ、こっちも怪我が治らないと動けないし、下手に疑われなくていいか)
この怪我だったら二週間もすれば元通りになる。
後は自分が速やかにアレン・ウォーカーを始末すれば事はスムーズに行く。
そう、待つんだ。
チャンスを…
ーーー・・・
「こんにちは、」
「あ、今日も来てくれたんですか…?」
あれから一週間、アレンは毎日のようにのいる病室に訪れては花瓶の花の水替えや、と話をしにきた。
「はい。明日からはずっと、任務で来られなくなるんですが、記憶が無くなって不安だと思うんで…」
何か思い出しましたか、そう尋ねる少年に、は人として少なからず罪悪感を覚えた。
会ったばかりの正体もわからない自分をこうまで心配してくれて、そんな彼を自分は騙しているのだと思うと胸が痛む。
「いえ、まだ何も…ごめんなさい」
「そうですか…でも焦る事ないですよ。
あ、僕に敬語は使わないでいいですよ」
「そんな…助けてくれた恩人に馴れ馴れしい事、できません…」
両手を振って否定する。
すると、アレンはずいっと顔を近づけて、
「僕はに敬語使ってほしくないです」
と言った。
敬語で話していると、何か見えない壁があるみたいだから…と付け足す。