第12章 more than a million miles アレン裏
「オーナー、いらっしゃる?」
ウェイターに赤いカードを差し出し言った。
「っ…かしこまりました―――――――どうぞ奥へ」
ウェイターは一旦奥へと駆けて行き、しばらくしてまた戻って来た。
そして私を見て、微かに頬を赤らめた後、私を奥の通路へ通した。
私も名の知れたものだな、とまるで傍観者のような気分でいると、
1番突き当たりの部屋で止まった。
「こちらです」
豪奢な扉が開き、甘い花の匂いが鼻につく。
貴族が好むような深紅に統一された部屋。
キングサイズのベッドに、シャンデリアの光りに照らされた黒いソファー。
それだけは黒で、私の目を留まらせていた。
「悪くない部屋ね…」
「お褒めいただいて、光栄です」
綺麗なアルトボイス。
彼はその黒いソファーに優雅に腰を下ろしていた。
細いラインの身体に、紳士を装うダークスーツに身を包んだ白髪の男。
彼こそ、今夜、“ハートの女王”のターゲットに選ばれたこの店のオーナー。