第9章 夏の終末りに想うこと feat:夜久衛輔
ザーザーと、雨が降り注ぐ。びしょ濡れになりながらも、俺は目の前の少女と対峙した。彼女は、水滴を一つも被っていなかったよ、だって彼女は―――幽霊なんだから。
「……んで………なんでもっと早く言ってくんなかったんだよ。俺そんなに信用ねぇかな?」
『そうじゃなくて。悲しませると思ったから…』
切な気に歪められたサナの表情。ぎしりと、心が軋んだ。
「どうせ知るなら、どうせこんな思いするなら、初めからそれを知りたかったよ!」
『でも、こんなこと、信じてもらえるなんて到底思えないから……それに、わたしがここにいられるのは、夏休みの間だけで……』
縋るような視線が、今は鬱陶しかった。そんな顔すんなよ。泣きたいのは俺の方だ。
「じゃあ、っじゃあ最初っから仲良くすんなよ!期間限定なんだろ!?もう会えないんだろ!?なら俺は、俺はっ、サナと会いたくなんかなかった!!!」
ひゅ、とサナが空気を吸った。その双眸を、哀しみが染め上げた。俺は踵を返し、何も言わずに駆け出した。走って走って、家に帰って、ただいますらも言わずに部屋へ駆け込んだ。それから枕に顔を埋めて、号泣した。
「うああぁああぁぁっ、うぐ、え、ああぁああぁぁああっ」
それは悲鳴に似ていた。絶叫するかのように泣いて、涙が枯れる頃には、虚無感だけが支配していた。ふと視界に入ったカレンダーには、もう8月25日までバツがついていた。
"わたしがここにいられるのは、夏休みの間だけで"
そう言った、サナの顔が思い浮かんだ。あと、6日しかなかったんだ。それなのに俺は、翌日から公園へ行かなかった。正確には、怖かったんだけどな。サナが前みたいに笑ってくれないと思うと、ぎゅーっと心臓を鷲掴みにされてるんじゃないかってくらい、胸が痛かった。
そして、運命の8月31日。俺は公園へと、足を向けていた。いてほしいのに、いてほしくない。そんな矛盾を抱えたまま、とうとう着いてしまった。サナは、淋しそうに俯いて、キィ、キィ、とブランコを漕いでいた。