• テキストサイズ

ハイキュー!! 夏休みバトン!

第9章 夏の終末りに想うこと feat:夜久衛輔




「サナ!」


俺はサナに駆け寄った。『衛輔くん、こんにちは』といつものように笑うサナ。でも、何かがおかしかった。


「具合でも悪いのか?大丈夫か?」


『平気。でも、ありがとう』


そう言うサナの表情は、とても大丈夫そうには見えなくて。色白だと思っていた肌は、肌の色を通り越して青白くぼんやり光って見えた。


不安が脳裏を過ぎったその時、“にゃあ”と猫が啼いた。とてとてと歩く黒猫は、俺の足にすり寄る。撫でようとすると、ベンチに座るサナの方へと歩いて行く。気まぐれだな、と思った次の瞬間、


「え…………っ?」

   ..........
黒猫がサナの足をすり抜けた。


そんなこと、あるはずがない。そんなこと、あってはならないのに。でも確かに、俺の目にはサナの足を猫がすり抜けたんだ。


「こんなの、見間違いだよ。だってほら、サナはボール持てるし、バレーだって……」


そう言って差し出したボールは、サナをすり抜けてストンとベンチに落ちた。


「嘘だ、こんなのうそだ。だって、サナはここにいる。俺の前に、ここに!」


伸ばした両腕が、すぅとサナを通過する。そこだけが氷の世界のように、サナがいるべき場所に触れた手が、痛いほどに冷たい。


「ここに……っ、いるじゃねぇかよ………」


だらん、と重力に引かれて落ちた俺の腕を、そっとサナの手のようなものが撫でる。ひやりとした感覚が、肌を滑った。


『騙してて、ごめんなさい。わたしはもう、ここの人間じゃないの』


もう、とっくの昔に死んでいるの。


そう、ひどく淋しそうに、サナは嗤ったんだ。


『わたしも、バレー部だったの。衛輔くんと同じ、音駒高校の、ね。もう、5年も昔のことよ。この公園でね、小学生の子とバレーをしていたの。飛んでいったボールをその子が追い掛けて、トラックに轢かれそうになって、代わりに、わたしが………』


思い出した。ちょうど5年前の夏休みに起こったとある事故のこと。まだ小学生だった俺の耳にも、その事故は衝撃的だった。高校生の女の子が、子供を庇って轢かれたと、たちまち広がった。


その時の高校生が、サナだというのか。


ポツ、ポツ、と水滴が地面にシミを作る。そのリズムはいつしか速くなり、あっという間に雨が降り出した。


ああ。だから今朝は、嫌な予感がしたのか。


 
/ 95ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp