第9章 夏の終末りに想うこと feat:夜久衛輔
その日から、部活が終わる度にその公園へと足を運んだ。どんなに早く終わっても、どんなに遅く終わっても、いつもサナはブランコに座って、俺を待っていた。そして俺に気付くとふわりと飛び降りて、駆け寄って、ベンチに座るのだった。
「今日もリエーフとレシーブばっかしてたよ。春高まで時間もないしなさ、頑張んねぇと」
『衛輔くんは頑張り屋さんだね』
「んなことないぜ?練習だるーとか、めんどくせーって思うこともあるし」
『でも3年間も続けてるじゃない』
いつも話すのは俺ばかりで、それでいいのかと一度サナに訊いたことがある。でもサナは『わたしは衛輔くんのお話が聞きたいから、いいの』と笑った。
部活で何をしたとか、誰がどうとか。晩飯の野菜炒めが旨かったとか。そういえば昨日虹を見たんだとか。そんな他愛のない、なんの変哲もない話でも、サナは面白そうに聞いてくれた。
一週間した頃だろうか、いつも通り公園へ向かうと、サナはブランコにいなかった。慌てて見回すと、ベンチの上ですうすうと寝ていた。
「……サナ?」
『ン………あ、衛輔くん、こんにちは』
眠たそうに目をこすりながら、サナは起き上がる。本人は笑っているつもりかもしれないが、その表情にはなんとなく翳りを感じた。
「今日さ、俺バレーボール持ってきたんだ。だからバレー、やんない?あぁ、嫌なら別にいいんだよ?」
やっぱりしどろもどろになる俺。クスリと笑みをこぼしたサナは、俺の手からボールをそっと持ち上げ、トンットンッとアンダーで上げる。
『こう見えてもバレー部だから』
「っ!!じゃあ、やろうぜ!」
『うんっ』
ぽーん、ぽーんとボールをパスする。たまにスパイクの真似事をしたり、片手で返したり。懸命にボールを追うサナは、なんだか小動物みたいだった。
次の日から、俺はボールを持っていくようになった。サナはベンチで寝ていることが多くなった。そして不可解なことに、段々と目覚めるまでに時間がかかるようになった。
そしてとうとう、その日はやってきた。
朝から雨が降りそうで、降らない、微妙な天気だった。なんだか変な胸騒ぎがしたから、部活が終わってすぐに学校を飛び出した。息も絶え絶えで着いた公園にサナはいたけれど、ベンチに腰掛けるその表情は浮かなかった。