第4章 "好き"の行方は知らぬまま、
もう夏休み終了まで、既に12時間も無い。お昼ご飯を終えた灰羽はお皿を片付けるなり真っ先に勉強道具を机に広げた。そこからそらが付きっ切りで宿題を教えること2時間。驚異的な集中力を見せた灰羽は、ペンのスピードをを上げる。
「そら、俺と研磨コンビニ行ってくんな」
『んー。リエーフ、ここの計算は?』
「えぇと、有理化して……」
いつになく真剣な眼差しの灰羽。そらもそれにつられてか、塾の先生のように見える。そろそろと忍び足でリビングから撤退した黒尾と孤爪。玄関を出た2人は、ぽつぽつと言葉を交わす。
「なんかリエーフ、宿題のエキスパートみたいだったね。目がすごかった」
「溜め込んだ宿題の、な(笑)」
くくく、と笑う黒尾。それから最寄りのコンビニに向かった2人。頑張ったしいいだろ、と黒尾はアイスを4種類手に取った。そのTシャツの裾をくいと孤爪が引く。振り向いた黒尾が「お、いいなそれ」とニヤリと口角を上げる。
「ちょっとくらい、良いよね?」
珍しくニヤリと笑った孤爪。その手には色とりどりの花火の袋があるのだった。
そして2人が家に戻ると、リビングにそらの姿は無く、代わりにリエーフが机に突っ伏していた。
「リエーフ、そらは?」
「………え"?」
ギギギ、とブリキのおもちゃのように首を軋ませて、灰羽が振り向く。燃料切れからなんなのか、その顔にはかなりの疲れが見て取れる。なんと声を掛けようか孤爪が逡巡している時、黒尾とそらが姿を現した。
『リエーフ、進んだ?』
「あと2ページです」
『終わるじゃん!ほら、頑張れ頑張れ!』
「うー、でもこれ大学入試問題で……」
がっくりと項垂れるリエーフ。と、その時。
「ッたくしゃーねェな、教えてやる」
ガタン、と灰羽の隣に黒尾が座った。
「どれどれ……なんだよ、こんなん簡単だろ。いいか単細胞、よく聞けよ?」
そうして始まった黒尾"先生"の授業。それはとても分かりやすく、灰羽のオツムでも、スルスルと飲み込んだ。そしてその1時間後、全ての宿題を終えたのであった。