第4章 "好き"の行方は知らぬまま、
そらを捕まえた灰羽は、そのまま自分の布団へと引き摺り込む。そして、後ろからそらの華奢な背中をすっぽりと、抱き込んだのだ。
『っ、リエーフ?』
「そら、俺とおんなじにおいする」
すんすんと鼻を鳴らし、シーツに散らばったそらの髪を掬い上げる灰羽。そらはじっと身を固くしているのをいいことに、灰羽は髪を撫でる。細い、まるで絹のような限りなく茶色に近い(そらは黒だと言い張っている)髪を、弄ぶように指先でクルクルと絡める。
そんな行為を許すはずもなく、灰羽の背後にいる黒尾が牙を剥いた。どふっ、という鈍い音と共に黒尾の長い脚がしなり、灰羽の背中に突き刺さる。「うぐぅ」と苦痛の滲む声で灰羽が呻き、その隙にそらはベッドへと避難した。
「クロさ…いだい……」
「バーカ」
『黒尾、ナイスだ。リエーフ、早く寝ろ。そしてもう起きるな、そのままキープね』
「それ遠回しに死ねって言ってます!?」
わざとらしく鼻を啜る灰羽に、そらはフンッと鼻を鳴らした。そして3人にくれぐれもベッドに入らないよう釘を刺してから、重たい瞼をぱたりと閉じたのであった。
ピピピピピ、と無機質な音が響く。頭上で鳴り響くその物体を、手探りで見付けると、そらはカチリとボタンを押し、止めた。
鳴ったってことは、もう6時半回ってるよね。そろそろ起きて、朝ご飯を作らないと、絶対うるさいよなぁ。特に、リエーフが。そういえば、あの後何もされなかったや。良かった。
そう思って寝返りを打ったそらの視界に飛び込んできたのは、
「ぐう………」
『く、ろお?』
枕に顔を埋める黒尾だった。そして慌てて反対側を向いたそらの視界には、
「むにゃ……そら、ちゅー………」
『リエーフ………』
言わずもがな、灰羽がいた。
そしてそして、2人の腕はがっちりと、そらのお腹に回されている。朝からイケメンサンドなわけだが、当然、そらがそんな状況にキュンと来るわけもなければドキッもあるわけがなく。
『ぎゃあぁぁあああぁあぁああっ!?!?』
そこにあるのは、色気もクソもへったくれもない、そらの悲鳴だけなのでした。