第4章 "好き"の行方は知らぬまま、
そらが戻ってきたわけだが、黒尾は不機嫌オーラ満開だ。それもそのはず、灰羽がそらの背中にへばり付いたままだから。キャプテンからの敵意の篭った眼差しに灰羽は内心で恐怖しながらも、ここは決して譲らない。
そう、寝る場所だ。
そらのベッドは壁際に、そこから反対側の壁へ向かって3つの布団。当然、誰もがそらに近い方に寝たいわけで、激しい舌戦(寝床争奪の)が繰り広げられる。
「俺でいいじゃないっすかー」
「ダメ。お前よそもんじゃん」
「何すかそれ?おかしくないですか?それにクロさんも研磨さんも幼馴染みでずっといるんだから、ここは可愛い後輩に譲ってくださいよ」
「自分でかわいいとか言うあたり自意識過剰…」
「お前1ミリも可愛くねェだろ。ここは、これまでもこれからも俺の定位置なんですぅ」
「そらの膝はおれの位置だけどね」
「それはガキの頃な?」
『あーはいはい分かった分かった!』
ヒートアップする終わりの見えない口論に、痺れを切らしたそらが口を挟んだ。そしてその口から飛び出た提案とは、果たして―――
『じゃんけんね』
―――至極簡単だった。
『はい行くよー、さーいしょーはぐー』
「「「じゃーんけーんポンッ!!!」」」
灰羽はチョキ、そして黒尾と孤爪はなんとパー。つまりこの時点で灰羽の一人勝ちが確定したのである。
「ィヨッシャアアアア!」
『リエーフうるさいから。ほら、黒尾も研磨も布団入って、もう1時近いんだから電気消すよー?』
ゲームを充電しながらやりたいから、と孤爪は一番端に陣取り、巣作りを始める。渋々真ん中に寝転がった黒尾と対照的に、灰羽は満面の笑みだ。
『電気消すよ、おやすみ』
「おやすみなさーい!」
「おやすー」
「……オヤスミ」
パチッ、とそらが電気のスイッチを押し、とっぷりと闇が部屋を覆う。カーテンの裾から僅かに漏れる月明かりを頼りに、そらはベッドに戻った。いや、正確には戻ろうとしたのだが、
『っ!?』
「捕まえた」
どうやら、空腹のライオンに捕まったようだ。