第4章 "好き"の行方は知らぬまま、
ローテーブルを壁に立て掛け、散らかされた本をしまい、部屋を広くする。そこには3人が寝るだけの十分なスペースができあがった。
「お、間に合った間に合った」
『黒尾?』
そらが振り向くと、黒尾が部屋に入ってくるところだった。
「布団敷くの、手伝おうと思ってな」
『わ、助かる、ありがと』
眠たいのか、いつもの凛とした雰囲気とは打って変わって、ふにゃふにゃとしているそら。とろんとした視線で"ありがと"と言われ、黒尾の心臓がドクンと音を立てる。やっべー、反則だろ……
「全部3つずつだよな?」
『うん。私が出すから、敷いてもらえる?』
「りょー」
2人でやったので仕事が早く、10分と経たずに用意が終わる。そしてそれを見計らったかのように孤爪がひょこりと部屋を覗き込んだ。
「ねぇ、もう入ってもいい?」
「おう、いいぞ」
チラ、とそらを見る孤爪。その瞬間、2人の視線が絡まり、先にそらがそれを逸らした。その頬は傍目にも分かるくらい、桜色になっている。
『わ、たしっ、歯磨きしてくるね!あと、あとリエーフも呼んでこなきゃ!』
「おう、いってら」
バタバタと駆けて行く後ろ姿をじっと見詰める孤爪。その姿に何を思ったか、黒尾が孤爪の肩を叩く。
「わ、クロ、何?」
「やっぱ、さっき何かあった?」
「クロが気にすることじゃないよ」
そう言って微笑んだ孤爪に、パチパチと目を瞬かせる黒尾だったが、不意に表情を弛め、わっしゃわっしゃと孤爪のサラサラの髪を掻き混ぜた。
「そうかよ」
「ちょ、クロ、やだってば。もう……」
嫌だと言いつつも楽しそうな孤爪。
(おれ、クロがライバルでよかったよ)
そんな孤爪の心など、誰も知らない。黒尾に向けられるその笑みに、一筋の影と涙があることを、窓から覗く三日月だけが、ただ何も言わずに見下ろしていた。
そして歯磨きに向かったそらなのだが、
「そら〜」
『ひょっほひえーふ、ふほひひゅらひんらへほ』
「何言ってるかわっかりませーん!」
シャコシャコと歯を磨きながら、背後から灰羽に拘束されているのでありました。
(もうやだー、何これ、デジャヴュ?)