第4章 "好き"の行方は知らぬまま、
「危なかったね。大丈夫?」
そらは耳元で聞こえた声にビクリと震えた。そして首を捻って見上げて、目を見張る。
『え、けっ、研磨!?』
「ついてきて、よかったよ」
ふにゃ、と破顔した孤爪に、そらの胸がキュンと鳴る。なんだろう、この感覚は。ものすっごくレアな光景に出会したそらは、何とも言えない感慨に包まれる。
もちろん、孤爪にも包まれたまま。
「……で、そら」
『ん?』
「おれ、いつまでこの体制でいればいい?」
『へ……?』
"この体制"とはつまり、上の段にいるそらを、後ろから抱きしめるようにして下の段の孤爪が支えていることを示しているのであって。まぁ、かなり距離が近いプラス密着度が高いのである。
それを自覚したそらは眠気なんてどこへやら、頬が、耳が、段々と朱に染まっていく。それを見下ろし、孤爪はニィ、と口角を上げた。
『っえ、あ、研磨、あのっ、放し……』
「やだ」
『えぇえ!?』
「もうちょっと………」
そう言いながら、孤爪はそらの後ろ髪を撫で、顕になった首筋に顔を寄せてふぅっと息を吹きかける。びくっと分かりやすく跳ねたそらの肩に、孤爪は目を細める。
「いい匂い……」
『っけんま、やめt……っひゃ!』
小さく悲鳴を出したそら。孤爪の唇が、その項に触れたのだ。ぴと、と付けられた柔らかな温もりに、そらは何一つ身動きできない。それをいいことに、孤爪はそらの腹部に腕を回し、ぎゅっと強く抱きしめる。
どうしよう。研磨が近い。それになんだか、今日は雰囲気が違う。いつもより、大人っぽい、のかな。っあ、うなじ、ペロってされた……っ、ヤバいどうしよう、なんかもう、研磨に喰べられs…
「おーい研磨、どこ行ったー?」
「あ、クロ」
『っ!』
「あ、そら……」
階下から聞こえた声に、ふい、と孤爪が後ろを向く。拘束が緩まったスキに脱出したそらは、部屋まで走り、飛び込み、その場に崩れるようにしゃがんだ。熱い。身体が、いや違う、研磨の触れたところが。
『〜っ、もう……!』
少しだけ、火照った体に動揺しながらも、そらは布団を敷くのだった。